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東京地方裁判所 昭和48年(モ)3392号 判決

理由

一(被保全権利)

本件仮差押の被保全権利たる債権者の債務者らに対する約束手形金債権につき、昭和四五年一二月一五日、東京地方裁判所において仮執行宣言付手形判決がなされ、同判決が同四七年一〇月二一日に確定したことは当事者間に争いがない。

従つて本件仮差押の被保全権利の存在することは明らかというべきである。

二(保全の必要性)

1  まず仮執行宣言付手形判決が存在する場合は保全の必要性を欠くとする主張について判断する。

仮執行宣言付手形判決による執行は執行の保全のためではなく、債権の満足を目的とするものであるけれども、それによる執行は確定的ではなく、終局的には債権者が勝訴するものとしてもその中途である異議訴訟又は上訴審において取消される場合も存するから、債権者が終局的に勝訴する場合に備えて予めその執行を保全しておく必要性はなお存在するものといわなければならない。

2  次ぎに本件異議訴訟の口頭弁論終結時において、執行力ある債務名義があるから、保全の必要性がないとの主張について判断する。

なる程執行力ある債務名義が存在するならば終局的執行としての強制執行が可能であることは言うまでもないが、しかし保全処分の申請当時既に債務名義がある場合と異り、保全処分の決定後において債務名義が形成された場合にあつては、その債務名義形成の一事を以つて保全の必要性が消滅すると解すべきものではなく、債権者がその債務名義に基き現実に強制執行に着手するまでは債務者の執行目的財産を保全しておく必要性は十分存するのであり、保全制度の目的に照らしてもまたかく解すべきものといわなければならない。

3  また、仮執行宣言付判決により債務者らの株式会社ユニカに対する給料債権を差押えたことは当事者間に争いがないが、右執行によつて債権者の本件債権が満足されたことの主張、立証はない(かえつて、取立命令が発せられたのに第三債務者らから支払われていないことは債務者らにおいて認めている)から、なお本件不動産につき本件債権の執行保全のため仮差押をなすことは毫も妨げないものというべく、この点につき保全の必要性を欠くとの債務者らの主張は失当たることは明らかである。

4  そこで本件における仮差押の必要性について判断するに、債務者らが一七五〇万円余の債務を負担し、これが担保のため債務者らの唯一の資産とも言うべき本件不動産に抵当権等の設定登記がなされていることは債務者らにおいて明らかに争わないので自白したものと看做すべく、これに前記の如く差押を受けた給料債権について支払がなされていない事実を合わせ考えると、債権者としては本件不動産に対し仮差押をなしておかなければ債務者らの財産状態がさらに悪化し、一層満足を得られない状態を招来するおそれがあるものと認めることができるのであつて、本件仮差押の必要性は存するものといわなければならない。

三、さらに本件仮差押決定の際提供された保証金につき担保取消決定がなされたことは当事者間に争いがないが、仮差押決定が債権者に保証を立てしめずしてなされ得ること(民訴法七四一条)に鑑みれば、債務者らの蒙ることのあるべき損害についての保証がなくなつたからといつて仮差押決定が取消さるべきものとなるいわれは何ら存しない。

この点に関する債務者らの主張も失当である。

四、よつて、東京地方裁判所が債権者の申請に基き、昭和四七年九月一一日本件不動産につきなした仮差押決定は正当であるからこれを認容

(裁判官 安国種彦)

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